孤独な予言者Ⅱ プロローグ

 はい。ということで「VICE―ヴァイス―孤独な予言者 Ⅱ」~黒龍の目覚め編~ です。

「予言者Ⅱ」と呼んでね☆彡

 

 実は私の中では、郷原悟の物語は、「Ⅰ」で終わってもいいかなぁと思わなくもなかったのですが、郷原とあかりのその後が気になってしまい、もうあのまま本当に二人は会わないのか、逢えないのか、書き終わった後に気になり始めました。

 読者さまからも

「郷原さんに幸福になって欲しい」「あかりちゃんに幸福になって欲しい」というご意見があり、郷原とあかりの関係を描こうかしらとも思ったのですけれども、そもそも郷原の占星術はなぜ「当たるのか??」という掘り下げが足りないような気も致しました。

 それで、「郷原の占星術はなぜ当たるのか」「占星術とはそもそも何なのか」「郷原の師・雪村幸造が郷原に叩き込んだ占いの奥義とは何なのか?」ということを中心に、ひとまず「Ⅱ」を描いて、そのあとであかりと郷原の関係に答えを出さないとうまく物語がつながらない、と考えたのです……。

 

 しかし、うーん、どーしよ、と、「Ⅰ」よりも「Ⅱ」の序盤を始めることのほうに悩みました。「孤独な予言者」は、「占い賭博」を描かないとダメなのです。中心に「占い賭博」というシカケがいっぽんあるからこそ、その周辺で行動し、巻き込まれてゆくキャラクターたちが生きるのです。

 

 けれども、山本編で、いまだかつてアニメ作家も漫画家も小説家も、誰も描いたことがないであろう「占い賭博」をやりきった感があったというか、占い賭博をどーしよ、どーーーもって行こう、と、超絶難航シナリオすぎて脳みそウニ。書き出しを決めるまで3年はかるくかかっています。そのあいだ、占い賭博のネタをもとめてどれだけの資料を読んだのでしょうか(涙)。

 

 んで、現実の、私の時間軸が「Ⅰ」から「Ⅱ」に至るまで3年以上経過したため、作中の時間軸にも悩み、あかりと郷原をいったいどこで再び会わせればいいのかと、本当に苦しみました(涙)。

 

 3年後?? 実は女性実業家になったあかりとおちぶれた郷原、まさかのパリで再会?? いや、いちばん苦手なパターン(笑)。水曜10時ドラマかよみたいな(笑)。 ならば夏にしちゃう?? いやダメだ。郷原が短パンビーサンアロハシャツきて夏を満喫している絵ずらは、郷原の生みの親として描けない。郷原に真夏は似合わない!!! だってハードボイルドだもの!!!!

(※そのわりにこんな絵を・・・)

 

 

 などと悩んだ末、あかりちゃんとすんなりまた再会させるには、よく考えたら「山本との占い賭博のすぐあと」「そのまま続けて描く」が一番すんなりシナリオが進行するじゃないか!! と気づきました。。。 それが3年。。。 (^^;;)

 

 そんなわけで、私もがんばったのです「Ⅱ」。。。(涙)

 物語は、実は、占い賭博のあとの、「志垣と郷原の会話」から始まっています。郷原悟の正体を実は、志垣老人は知っていた。ということで、「孤独な予言者Ⅱ」 をお楽しみください。まずは一気に26年前の広島へ飛びます。

 

プロローグ・26年前の広島

 

「なんでですか。どうして私が息子を手放さなきゃならないのですか」
 
 女は取り乱し、汗をにじませながら必死で面接官に喰ってかかっていた。真夏の広島家庭裁判所第3号聴取室。エアコンの効きが悪い。

 白地に花柄の、胸元を大きく開けたワンピースと、セットに時間をかけたようなくるくるカールの巻き髪。きゅっとしまったウェストに、真っ赤な口紅と厚い化粧。家裁の調停員は眉根を寄せていた。彼女は見るからに歓楽街の女だった。

「児童相談所が、息子さんをひとまず、施設に預けたら言うとるんですわ。失礼ですがあなた一人では今、養育は非常に困難でしょう。娘さんもあないになりよってからに、入院中じゃけん」

「どうして? 今までだって親子3人、どうにか暮らせていました。私が水商売だからってバカにしているのですか」

 女は調停員に喰ってかかった。調停員は資料をめくりながら女の病歴を指摘した。

「いや……、じゃけん、子育てよりもまず、あなたが健康になることを最優先させたらどうじゃ言うてるんよ。あなた今、精神科へ通院されちょるわけでしょう。お仕事もできる状態ではない。それを立て直すまで、息子さんを養護施設に預けましょうっちゅう話じゃ」

「あたしから、親権を取り上げると……?」
 
 女は泣きそうに苛立って、唇をかみしめていた。

「まぁ、一時的に、ということですけんね……。あんたとあんたの内縁が、子どもらに重症を負わせる事件を起こしたからには、行政介入せんわけにも行かんのじゃけん。息子さん、可哀想に小学校も行けてないじゃろ。出生届けさえ出されておらんかったもんじゃから、行政としてはいろいろ手続きがあるんじゃ」
 
 くだけた感じの中年男性調停員は、広島弁で矢継ぎ早に女に言った。女は悔しそうにうつむいて、自分の膝のミニスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。露わな真っ白い太ももと、ぷんぷんする香水の匂いが、どうも反省の態度をかすませてしまう。

「なんで息子の戸籍をずっと作らんかったんじゃ。娘さんのほうはちゃんと出てるのに……。出生届けが出てないっちゅうことは、病院で出産した子どもじゃないいうことか」

 女は尋ねられて、堰を切ったように泣き出した。そんなこと、大きなお世話だと震える声で言った。

「そんなこと、どうだっていいじゃないですか。あたしにもいろいろな事情があったんです。この子がお腹の中に宿ったとわかったとたんに、夫が死んでしまったのです。それからどんなに苦労したか――」

「……事情のある子どもじゃったとしても、出生届け出さんかったら無戸籍児のままになるんじゃきに。なんで戸籍を出さんかったのか、その理由を聞かせてください」

「………………」

 女は、涙に濡れた厚化粧の眼を恨めし気に上げると、「ですからそれは」と、震える声で言った。

「それは警察でも話したし、民生員にも、以前から何度も何度も言っているはず――。どうしてみんな信じてくれないのですか。この子はある王朝の、高貴な生まれで、出生届けなど提出したら誰に命が狙われるかわからない子だから、どうしても出せなかったのだと――」
 
 調停員は「じゃから」と、広島弁で女の談話を遮った。

「じゃから、それがビョーキなんよ。精神科の先生の所見もある。あなたは現在統合失調症の治療中で、それは症状なんじゃけぇ」

「症状なんかじゃありません!! 本当なんです!! 本当にあの子は――」

 女が身を乗り出して弁明しようとすると、タイマーが鳴りだした。

「時間じゃ……。ほなら、正式な裁判所からの命令が届くと思いますが、息子さんは一時的に児童相談所で保護するようにしたいと思いますけん。お母さんは病気を早く治して、息子さんを迎えに行けるよう頑張ってください」

「頑張るって何――?? 本当にあの子は王族なんですよッ!! 本当に本当に、王様なんです!! 天皇に次ぐ身分なんですっ!! 信じてくださいッ!!」

「……もっといい精神科も紹介しますけん……」

「なによっ!! みんなであたしを精神病扱いしてッ!! あの子は本当に世が世なら、この日本の法王なんですっ!! だからお願い、あたしからあの子を取らないでくださいっ!! あの子だけが生きる望みなんですっ!! うわぁぁぁぁぁ!!」
 
 女は泣き叫び、暴れたが、家庭裁判所の職員たち数名に肩を掴まれると第3号聴取室から出されてしまった。
 
 調停員はふぅ、と自分の肩を揉んだ。司法修習生が、女がいなくなったあと、そっと調停員に話しかけた。

「今の女の人、ものすごい妄想ですね……」

「血統妄想と言うらしい。今の女、ソープで働きすぎてイカれてしもうたんじゃなきっと……。歓楽街の女には精神疾患が多いっちゃけんね」
 
 中年の調停員は、修習生に苦笑してみせた。

 

 

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