VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 シュンシュンと、やかんの口から湯気が噴出す。

  さっきまで戦場のように緊迫していた空気が、だいぶやわらいでいた。

 それでも床に転がされた谷中と、縛られた池田の構図が、まだ緊張感の残滓ざんしを漂わせていた。 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 カウンターの上の水割りグラスの中で、大きな氷がくるりと揺れた。自分以外にお客のいない店内。妙に静かだった。

 カウンターの奥では、十数年来の愛人である久子が、川嶋のために惣菜を作っている。その顔を、水割りを飲みながら時折 ...