VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 シュンシュンと、やかんの口から湯気が噴出す。

  さっきまで戦場のように緊迫していた空気が、だいぶやわらいでいた。

 それでも床に転がされた谷中と、縛られた池田の構図が、まだ緊張感の残滓ざんしを漂わせていた。 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 しんと静まり返った、夜明け間際の空気――。

 空調はしてあるようでも、郷原の手の中に収まったベレッタ・M91の銃把じゅうはは、芯から冷たく凍り付いていた。

 唸うなり声がする――。さっき、どてっ腹に一発、お見 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 田代は首を捻った。今、東京では、この司法書士、行政書士が過剰気味だとも言われている。その何割かは弁護士事務所やコンサルタント会社などに就職できず、かといって個人で大々的に商売をする体力もないから、自宅を事務所ということにして行う個人 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 カウンターの上の水割りグラスの中で、大きな氷がくるりと揺れた。自分以外にお客のいない店内。妙に静かだった。

 カウンターの奥では、十数年来の愛人である久子が、川嶋のために惣菜を作っている。その顔を、水割りを飲みながら時折 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

  時刻は10時を30分回ったが、桂川興産の連中とおぼしきやつらは、まだ現れない。

 郷原は、浜崎に、自分の携帯電話を渡しておいた。それからひとり男子便所に入り、便器を一つ陣取って、ドアの外に故障中の張り紙をした。便座の蓋 ...