第二十三話 CHAPTER8、調印(1)
志垣老人の、深刻で、独特な悩みというのは、こういった内容である。志垣智成は長年、信仰に生きてきた人間だ。修験道を学び、大日如来を本尊とあがめ、宗教を日々実践して生きてきた。その宗教的カリスマで人を動かし、いつの間にか全国に信徒を50 ...
第二十話 CHAPTER7、一夜(1)
郷原悟と、北山あかりが、なんとなく同じベッドで眠っていた頃、都内某所にあるボクシングジムでは、一人の男がスパーリングの練習をしていた。
男の年齢は、かなり若そうで、青年といった感じであるが、顔色は冴えず、目の色は苦悩と ...
第十七話 CHAPTER6、対決(1)
ドアを出るとそこには、池田史郎が静かに座り、川嶋貢が、部下とともに待っていた。
「山本先生、助かったよ。とりあえず、これは切ってもらってあった手形だ。約束した通りの金額ぶんを返そう。あと、これは処置代30万だ。足がつくと ...
第十四話 CHAPTER5、突入(1)
しんと静まり返った、夜明け間際の空気――。
空調はしてあるようでも、郷原の手の中に収まったベレッタ・M91の銃把じゅうはは、芯から冷たく凍り付いていた。
唸うなり声がする――。さっき、どてっ腹に一発、お見 ...
第十二話 CHAPTER4、罠(2)
カウンターの上の水割りグラスの中で、大きな氷がくるりと揺れた。自分以外にお客のいない店内。妙に静かだった。
カウンターの奥では、十数年来の愛人である久子が、川嶋のために惣菜を作っている。その顔を、水割りを飲みながら時折 ...