VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

  池田がまだ厚生労働省で、法人担当課長をしていた頃――。

 池田の上司だった官僚が、早期定年後に天下りとして時雨製薬の役員に就任した。その上司と池田は、かなり親密であったらしい。時雨製薬に上司が籍を移してからも、ちょくち ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 ドアを出るとそこには、池田史郎が静かに座り、川嶋貢が、部下とともに待っていた。

「山本先生、助かったよ。とりあえず、これは切ってもらってあった手形だ。約束した通りの金額ぶんを返そう。あと、これは処置代30万だ。足がつくと ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 シュンシュンと、やかんの口から湯気が噴出す。

  さっきまで戦場のように緊迫していた空気が、だいぶやわらいでいた。

 それでも床に転がされた谷中と、縛られた池田の構図が、まだ緊張感の残滓ざんしを漂わせていた。 ...

VICE-ヴァイスー孤独な予言者, 公開中の小説

 カウンターの上の水割りグラスの中で、大きな氷がくるりと揺れた。自分以外にお客のいない店内。妙に静かだった。

 カウンターの奥では、十数年来の愛人である久子が、川嶋のために惣菜を作っている。その顔を、水割りを飲みながら時折 ...